なぜサービス実施記録が必要なのか

このサービス実施記録は、なぜ必要とされるのでしょうか?
その理由は以下の3点です。

・スタッフ間や外部と情報を共有するため
・介護報酬を請求する際の根拠となるため
・介護サービスに関する知見を積み重ねるため

それぞれくわしく説明しましょう。

スタッフ間や外部と情報を共有するため

まず第一に、記録を残すことで、スタッフ間で情報共有することができますし、必要であれば外部の医師などにも情報を提供することが可能になります。

介護サービスは、ひとりの利用者に対してつねに同じヘルパーが担当できるとは限りません。

そのため、ヘルパーが変わる際には引き継ぎを行う必要がありますが、そこで「サービス実施記録」が役立ちます。
前回どのようなサービスを行ったか、その際に利用者がどのような様子だったかがわかれば、次回により適したサービスが提供できるでしょう。
たとえば、訪問介護で食事を作る場合、利用者の好き嫌いや前回のメニューを記録しておくことで、嫌いなものや同じメニューを出してしまうことが避けられ、好きなものやバリエーションに富んだ食事を提供できるようになるはずです。

また、場合によっては利用者が病院や老人ホームなどを利用するにあたって、過去の介護状況に関する情報が役立つこともあります。
そのような外部との連携のためにも、サービスの記録を残しておくことは重要なのです。

介護報酬を請求する際の根拠となるため

もうひとつ重要なのが、介護報酬を請求する際の根拠としての役割です。
「介護報酬」とは、「事業者が利用者(要介護者又は要支援者)に介護サービスを提供した場合に、その対価として事業者に対して支払われる報酬のこと」(厚生労働省資料「介護報酬の仕組みについて」より引用)を指し、その金額は、提供された介護サービスごとに規定されています。
介護報酬のうち原則として1割は利用者が負担しますが、残り9割は「介護給付金」として各自治体が負担することになっていて、事業者が国民健康保険団体連合会に請求することで給付される仕組みになっています。

 

出典:厚生労働省「第1回社会保障審議会後期高齢者医療の在り方に関する特別部会」資料

つまり、どのような介護サービスを提供したかによって介護報酬の金額が決まるため、その内容を証明する根拠としてサービス実施記録が必要なのです。
特に、「介護給付金」を請求する際には、このサービス実機記録をもとにして提出書類を作成します。
もし、請求内容が適切かどうかを調査され、内容を証明する必要が生じた場合には、この記録が証拠となります。

実施記録がなかったり、請求内容と異なっていたりした場合には、介護給付金の返還や、介護保険サービス事業者としての指定を取り消されてしまう恐れもありますので、サービス実施記録の保存が必須なのです。

介護サービスに関する知見を積み重ねるため

さらに、サービス内容の記録を積み重ねることで、事業所やスタッフにその経験や知識が蓄積されていきます。
利用者の過去の状態やその変化を見ていくことで、今後の方針を立てることもできますし、何か異常があった際には早期に発見することも可能になるでしょう。

 

サービス実施記録に関する法律・規定

さて、「「サービス実施記録」とは?」で触れたように、介護サービスの記録を残すこととそれを2年間保存することは、厚生労働省の省令によって義務付けられています。
では、それは具体的にはどんな省令でしょうか?

単に「法律で決まっている義務だから」という知識だけでもサービス実施記録を運用することはできますが、何か問題が起きた際に、「どの法令で、どのように定められているのか」を知っていたほうが、適切な対応ができるでしょう。
そこでこの章では、その法令に関して簡単に理解しておきましょう。

サービス実施記録に関する規定には、以下のようなものがあります。
太字の部分が、サービス実施記録についての条文です。


指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準(平成十一年厚生省令第三十七号)
(記録の整備)
第三十九条 指定訪問介護事業者は、従業者、設備、備品及び会計に関する諸記録を整備しておかなければならない。
2 指定訪問介護事業者は、利用者に対する指定訪問介護の提供に関する次の各号に掲げる記録を整備し、その完結の日から二年間保存しなければならない
一 訪問介護計画
二 第十九条第二項に規定する提供した具体的なサービスの内容等の記録
三 第二十六条に規定する市町村への通知に係る記録
四 第三十六条第二項に規定する苦情の内容等の記録
五 第三十七条第二項に規定する事故の状況及び事故に際して採った処置についての記録

指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準(平成十一年厚生省令第三十九号)
(記録の整備)第三十七条 指定介護老人福祉施設は、従業者、設備及び会計に関する諸記録を整備しておかなければならない。
2 指定介護老人福祉施設は、入所者に対する指定介護福祉施設サービスの提供に関する次の各号に掲げる記録を整備し、その完結の日から二年間保存しなければならない。
一 施設サービス計画
二 第八条第二項に規定する提供した具体的なサービスの内容等の記録
三 第十一条第五項に規定する身体的拘束等の態様及び時間、その際の入所者の心身の状況並びに緊急やむを得ない理由の記録
四 第二十条に規定する市町村への通知に係る記録
五 第三十三条第二項に規定する苦情の内容等の記録
六 第三十五条第三項に規定する事故の状況及び事故に際して採った処置についての記録

特別養護老人ホームの設備及び運営に関する基準(平成十一年厚生省令第四十六号)
(記録の整備)第九条 特別養護老人ホームは、設備、職員及び会計に関する諸記録を整備しておかなければならない。
2 特別養護老人ホームは、入所者の処遇の状況に関する次の各号に掲げる記録を整備し、その完結の日から二年間保存しなければならない。
一 入所者の処遇に関する計画
二 行った具体的な処遇の内容等の記録
三 第十五条第五項に規定する身体的拘束等の態様及び時間、その際の入所者の心身の状況並びに緊急やむを得ない理由の記録
四 第二十九条第二項に規定する苦情の内容等の記録
五 第三十一条第三項に規定する事故の状況及び事故に際して採った処置についての記録

事業所やサービスの種類によって省令は異なりますが、いずれも「記録を整備し、その完結の日から二年間保存しなければならない」という点は共通しています。
これらの省令があるために、介護サービス事業者は、サービスを提供するごとにサービス実施記録をかならず残し、それを2年間保存しなければならないというわけです。

 

Q&A


以上で、サービス実施記録に関して知っておくべきことをひと通り説明しました。
が、「まだ疑問がある」という方もいるかと思います。
そこで最後に、ここまでで説明しきれなかった「よくある質問」に答えていきましょう。

サービス実施記録は利用者側にも1部わたすべき?

サービス実施記録の書式は、市販のものが多種多様に出ていて、その多くは複写式です。

2枚複写のうち、1枚は事業所で2年間保存し、もう1枚は利用者側にわたしているという事業所も多いでしょう。
が、これはかならず利用者にもわたさなければいけないものなのでしょうか?

結論からいえば、サービス実施記録を利用者にかならずわたす義務は課せられていません。
前出の「指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準(平成十一年厚生省令第三十七号)」には、以下のように定められています。

(サービスの提供の記録)
第十九条
2 指定訪問介護事業者は、指定訪問介護を提供した際には、提供した具体的なサービスの内容等を記録するとともに、利用者からの申出があった場合には、文書の交付その他適切な方法により、その情報を利用者に対して提供しなければならない

これによると、利用者から求められた場合には、記録を文書などでわたさなければなりません
が、求められない場合については特に規定されていないため、かならずしも利用者にわたさなくても問題ないのです。

ただ、事業所と利用者でサービスの利用状況を共有し、サービス内容などで齟齬が生じるのを防ぐためには、利用者にもサービス実施記録を1部持っていてもらうほうが安心だと言えるでしょう。

サービス実施記録を電子化することはできる?

近年、介護業界でもペーパーレス化が進み、これまで紙で作成、保存していた書類を電子化する事業所も増えているようです。
その流れに乗って、サービス実施記録も電子化することはできるでしょうか?

答えは「YES」です。
実際に、モバイル端末でサービス実施記録を作成できるアプリなども出ています。
「でも、電子化すると利用者からの押印がもらえないのでは?」と不安に感じる方もいるかと思いますが、前述したように、そもそもサービス実施記録には利用者の押印は必要ありません
あくまで事業者が確認のために利用者の印をもらっているだけですので、電子化の際には印がなくても問題ないのです。

サービス実施記録を電子化すれば、訪問介護などで利用者宅に訪れた時間と退出した時間を自動で記録することができるなど、書類作成の手間が軽減されますので、導入を検討してみるのもいいでしょう。